子育てエッセー「すくすくポイント」

豊かな会話で子どもの思考力が育つ

國學院大學人間開発学部子ども支援学科教授池田行伸

  • 教育

いけだ ゆきのぶ
上智大学大学院修了:博士(心理学)佐賀大学教授、佐賀大学文化教育学部附属幼稚園園長等歴任後佐賀大学名誉教授を経て、現在、國學院大學人間開発学部子ども支援学科教授

「チョコが食べたい子どもとの会話」

 子どもはよくおしゃべりをします。たとえば日常生活の中で次のような場面に遭遇するでしょう。夕食の準備をしているお母さんに、「今、チョコレート食べたらいけないよね」と子どもが問いかけ、お母さんが、「そうだよ、もうすぐ夕食だから我慢しなさい」と答えます。さらに、「今チョコレートを食べたら、もうお母さん買ってくれないね」と子どもがたたみかけます。「そうだよ、約束でしょう」とお母さん。「今、チョコレートを食べたらお父さんが帰ってきて怒るね」と子ども。さすがのお母さんも「何度言ったらわかるの、お母さんは食事の支度をしているから忙しいの。あっちに行ってて」。このように怒ったことのあるお母さんは少なくないでしょう。

「なぜ子どもはしつこいのか?」

 チョコレートを食べたくてしかたがない子どもは、自分なりに懸命に我慢しようとしていたのです。食べたらいけない、食べたらいけないという思いが口から出ていたのです。そのような思いは子どもの場合、ひとりごとや会話の形になって現れます。つまり子どもは夕食前だから食べたらいけないのだ、規則を破るとお母さんがもうチョコレートを買ってくれない、お父さんも叱ると自分なりに考えていたのです。お母さんが会話の相手になってあげなければ、考えることをやめるでしょう。あるいは「えーい、食べちゃえ」ということになるかもしれません。

「思考力豊かな子に育てるには」

 大人ならロダンの考える人のようにトイレに閉じこもり、外界を遮断して頭の中で言葉を巡らせ考えることができます。いわゆる沈思黙考です。しかし、子どもには沈思黙考はまだ無理です。子どもは具体的に言葉に出して考えます。実は大人もそれと同じようなことをして考えることがあります。カウンセリングです。カウンセラーが来談者に「それはあなたが悪いからでしょう」と言うと、その人はもう相談に来ません。「そうなんですね」と受け止めてあげると、来談者は自分の思いをいろいろ話し始めます。そしてカウンセラーとの会話の中で新たな自分に気づき、自ら解決策を探し出すことができるのです。壁打ちをしながらテニスが上達していくようなものです。カウンセラーは正直にボールを返してあげる壁です。

 自分の子どもを思考力豊かな子にしたいと思うなら、たくさん話し相手になってあげてください。どんと胸を貸してあげてください。大人も子どもも、いくつになっても、どんな時でも会話する相手は必要です。